・喫茶店『こもれび』
何気なく発した感想に「よかったです」と、ポツリと呟くように返ってきた声が優しくて。
気付けば、初対面の三好さんを相手に自然と心を開いてしまっていた。
店内を見渡してみると、さっきまで気づかなかった物が目に留まる。
焦げ茶色の壁に素敵な海の写真が飾ってあったり、所々にグリーンが置かれていたり。
カウンター席の他には、テーブル席が数席あるのみ。
まるで「隠れ家」みたいなお店だ。
お客さんが座っている席に気を配りながら、テーブルの上に置かれていた水の入ったグラスが空になりかけた時、店主はさりげなくグラスに水を注ぎに行った。
常連さんらしき男性と、少し言葉を交わし戻って来た店主に訊ねてみる。
「店長さんって、失恋したことありますか?」
「……そりゃ、ありますよ」
「いつですか? 相手はどんな人でしたか?」
ぶしつけな質問をする私を前に、店主は困った顔をしながら微笑み返したから。
まだ子供だった私は、その意味を理解しようともせず調子に乗って、色々と質問攻めにしてしまったのだ。
「キレイ系? それとも、可愛い系? 年上? 年下? お店のお客さんだったんですか? それとも……」
「同年代の、普通の女性ですよ」