・喫茶店『こもれび』
言葉少なに答え、口を噤まれてしまい。
最後まで聞くことが出来なかった私は、消化不良のようにカップに口をつけた。
「一人ひとり、違った人生を歩んでいる。何気なく過ごしている毎日の中で、大切な誰かに出逢えることは奇跡だと思いますよ」
黙っていた口元が緩み、語られた言葉に。
胸を射ぬかれたような気がした。
『大切な誰かに出逢えることは、奇跡』
そんなこと、考えたことも無かった。
勿論、誰かから聞いたことさえない。
進級する度にクラス替えがあり、新しい顔ぶれになるクラスメイト達。
新しい担任に、各教科ごとの先生達。
学生なら、毎年行われていたことで、誰もが体験すること。
仲の良い友達と同じクラスになれたかが、クラス発表で気になる位で。
新しいクラスメイトとは、徐々に仲良くなったりするわけで。
誰かと出逢ったことを『奇跡』だなんて、思ったことなど無かったから。
その言葉は、とても新鮮で。
高校生の私にとって、とても大きな意味のある言葉に感じ。
不思議なくらい、すっと私の中に入ってきたのだ。
「それって、さっき私が別れた彼とも? 私にとって必要な出逢いで、必要な別れだったということですか?」