・喫茶店『こもれび』
「え? あ、いや。でも……」
「いいから。話は終わり。持ち場に戻って」
「夏樹っ」
「麻衣、今度こそ本当にサヨナラだ。結婚、おめでとう。幸せになれよ」
こんなのおかしいよ。
三好さんだって、本当は彼女のことをまだ愛しているんじゃないの?
客席から離れる三好さんと私を追うように、彼女は席を立ち「本気なの? 本当に夏樹はそれでいいの?」と繰り返し三好さんの背中に問いかけた。
振り向かずカウンター内に戻った三好さんは、それっきり彼女と視線を合わせようとしないから。
三好さんの対応に傷ついた彼女は、逃げるように店を飛び出して行ってしまった。
「あの人のこと、追いかけなくて……いいの?」
たまらず口にしてしまい、彼女を追いかけようと身体が自然と出口に向かい動いてしまった。
しかし、そんな私の行動と反していたのは三好さんだ。
本来ならば彼女を追うべきは三好さんのはずで、私ではないのに。
当の三好さんは、彼女を追うどころか優雅にお湯など沸かしている。
何故、追いかけようとしないの?
ホントに終わりでいいの?
後悔とかしないの?
喉元までこみ上げてきている言葉が、上手く口に出せないのは何故だろう。
このまま三好さんと彼女が復縁しなければいいと、心の底で願っている腹黒い自分がいるからだ。