・喫茶店『こもれび』
私の顔を覗き込み、柔らかく微笑んだ三好さんは。
いつもと変わらない三好さんだった。
「嘘って、どこら辺のことを言っているの?」
「え?」
キョトンとして私を見つめている三好さんは、ちょっと驚いているみたいだけど。
彼女と付き合っていた頃の三好さんじゃないって言ったこと?
それとも、今は他に好きな人がいるって方……?
「結婚したって嘘をついたこと。彩夏ちゃんには分かってると思ってたけど」
「あ、あぁ。そっちか、そっちね。うん、だよね」
毎日一緒に仕事をしている仲なのだ。
三好さんが結婚などしていないことは、分かっている。
お店の奥に続いている、三好さんのプライベート空間に足を踏み入れた時から、綺麗好きな男の一人暮らしだってことは分かっていたから。
三好さんの横顔を見つめていたら、やっぱり彼女への気持ちがゼロではないことを感じてしまう。
それは、私が三好さんを好きだからだ。
好きだから、好きな相手だからこそ悔しいくらいに分かってしまう。
「あの、結構失礼なことを聞いてもいいですか?」
「うん?」
「彼女が結婚するって聞いた時、どう思いましたか?」