・喫茶店『こもれび』


私の顔を覗き込み、柔らかく微笑んだ三好さんは。
いつもと変わらない三好さんだった。


「嘘って、どこら辺のことを言っているの?」

「え?」


キョトンとして私を見つめている三好さんは、ちょっと驚いているみたいだけど。
彼女と付き合っていた頃の三好さんじゃないって言ったこと?
それとも、今は他に好きな人がいるって方……?


「結婚したって嘘をついたこと。彩夏ちゃんには分かってると思ってたけど」

「あ、あぁ。そっちか、そっちね。うん、だよね」


毎日一緒に仕事をしている仲なのだ。
三好さんが結婚などしていないことは、分かっている。
お店の奥に続いている、三好さんのプライベート空間に足を踏み入れた時から、綺麗好きな男の一人暮らしだってことは分かっていたから。


三好さんの横顔を見つめていたら、やっぱり彼女への気持ちがゼロではないことを感じてしまう。
それは、私が三好さんを好きだからだ。
好きだから、好きな相手だからこそ悔しいくらいに分かってしまう。


「あの、結構失礼なことを聞いてもいいですか?」

「うん?」

「彼女が結婚するって聞いた時、どう思いましたか?」


< 86 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop