・喫茶店『こもれび』
腑に落ちない顔を向けたままの私の前に、出来立てのカフェモカが差し出された。
「俺の我儘のせいで、麻衣の思い描いていた将来を壊したこと。ずっと申し訳ないと思っていたから」
三好さんが忘れられなかったのは、彼女への想いではなく。
彼女の将来を自分が壊してしまったことだったのだ。
「でも、それは三好さんのせいじゃないと思う。三好さんは喫茶店を開く、っていう自分の夢を叶えることを選んだだけでしょ? 彼女は『安定』とか『収入』とか、現実的な考えが捨てられなくて、結局三好さんから離れたんでしょ? 可哀相なのは三好さんだよ。好きな人から自分の夢を否定されたんだから」
「彩夏ちゃんは優しいね」
「優しくなんか、ないよ」
プイッと三好さんの視線から逃れるように目線を手元のカップに落とす。
褒められるようなことなんて言ってないし。
むしろ、かなり勝手な解釈と主張をしたと思うけどな。
現に私は彼女に対して、三好さんの姿が見えない客席へ案内したりと、意地悪したし。
三好さんと彼女の過去を聞かされて、腹も立てたし嫉妬もした。
二人の仲が元に戻らないように願っていたのだから。