・喫茶店『こもれび』
(2)
けれど、三好さんが彼女の希望を受け入れ、大手企業に就職していたら?
きっと自分の夢を諦めたことを後悔して日々を過ごしたはずだし、忘れられずに就職した企業を退社した可能性だってあるわけで。
彼女の望む未来が、完全に保証できていたわけでもない。
それに。
三好さんが喫茶店を経営してくれていなかったら。
私が三好さんと出逢うことすら、なかったはずだし……。
「私は、好きな人の夢なら一緒に追いかけたい。一緒に居てほしいって思ってくれるなら、傍を離れたりしない」
「……彩夏ちゃんらしいね」
「そうかな。普通じゃない?」
「そうじゃない人もいるんだよ」
自分の利益や安定した暮らしを望むことも、生きていく上での必要な選択であり。
「まさに当時の彼女を思い出してみたら、縁談の持ち上がっている御曹司は適した相手だ」と三好さんは言った。
「社長の息子との縁談なら、麻衣の望む安定した生活と将来は、御曹司との結婚にこそあるんだ。麻衣が幸せになれる場所は、ここじゃない。俺では叶えてやれないから」
「だから嘘をついたの? 付き合っている人がいるとか、結婚しているとか。そんな嘘までついて彼女を遠ざけたの?」