・喫茶店『こもれび』
三好さんが彼女を忘れられなかった理由は、彼女を好きだからとか。
愛しているから等ではなかったことを教えてもらえて、黙って顔を隠したまま、耳を傾けている間思っていた。
未練があると言われなかっただけでも、今の私には救いがあったのかも、と。
「でも、そう思える様になったことの、一番のきっかけは。その子が店に通ってくれるようになったから、ってことが大きかったのかもしれない。自然に麻衣のことを思い出す事がなくなって。思い出すどころか、いつしかその子が店に来てくれることの方が、楽しみになっていたんだ」
「……三好さん?」
うっかり涙の零れた頬を濡らしたまま、突っ伏していたカウンターから顔を上げて、テーブルを挟んでいる三好さんを凝視してしまった。
そんな私の顔を覗き込んだ三好さんの目は、いつも以上に垂れて柔らかい眼差しが向けられていた。
「他愛もない話を面白おかしく話していた女子高生が、専門学生になって。ある日、うちの店に就職したいと言い出した時は、本当に驚いた。嬉しかったけど、すぐに二つ返事など出来ないと思ったんだ。その子の将来を、俺が保証できる自信なんてないから」