副社長のイジワルな溺愛
言われなくても電話中は話しかけたりしないんだけどな……。そんなに気が利かないと思われてるのかな。
「――今から? わかった。準備ができたらドアをノックしてください」
終話した副社長は室内の壁に備え付けられているクローゼットからスーツジャケットを出して、ひらりと羽織って襟元を直している。
その一連を見つめていると、案の定副社長が私の視線に気づき、デスクに戻ってきた。
「なんだ?」
「話しかけてもいいですか?」
黙っていろと言われたからには許可が下りるまでそうしていようと思っただけなのに、副社長が突然破顔して笑い出す。
「深里さんって、本当に真面目だな。そういうところ嫌いじゃないけど」
「っ!!」
伸びてきた長い腕を避けられず、大きな手のひらで髪をわしゃわしゃと撫でられた。
せっかくセットしたのに……。私が乱れを直している間も、副社長は笑顔のままだ。
いつもそんなふうに笑ってくれたらいいのに。
副社長の笑顔はなかなか見られない分、誰よりも輝いているように感じて、胸の奥がどういうわけか少し苦しくなった。