副社長のイジワルな溺愛
「失礼します」
倉沢さんとも噂になってしまったら、これ以上気を使うだけ無意味な気がして、堂々と秘書の目を気にせず副社長室を訪れた。
「――再来週でしたら、お会いする時間が取れますがいかがですか? 色々立て込んでいるもので……永井社長のご都合に合わせますので、どうぞよろしくお願いいたします」
副社長室に入ると、携帯で通話中のようだ。
そっとドアを閉めて、壁際に立って待つ。永井社長って言ってたから、この前来てた永井ホールディングスのCEOと話しているんだろう。
「……お疲れさま」
「すみません、お電話中とは知らず入ってしまいました」
「構わない。そこにある分が今回のものだから頼みます」
「かしこまりました」
いつまで私に任されるのかわからないけど、副社長秘書の手が経理ごとまで回るようになったら、きっと声をかけてくれるだろう。
そして、ここに来ることもなくなって、噂も消えて。
その頃、倉沢さんとはどんな関係になってるかな。
前みたいに、気軽に話しかけてもらえてたらいいな。