副社長のイジワルな溺愛

 ――九月第一週。

 副社長は予定通り欧州へ出張しているようで、社内共有のスケジューラーには二週間きっちり跨って予定が入っている。


「倉沢さん主催のお疲れ会に誘われちゃったんだけど」
「え、本当!? いいなぁ。私も関われたらよかったのに」

 エレベーターを待っている間、どこかの部署の女子社員が楽しそうに話している。
 私はというと、土木施工グループからの書類をすぐに返すため、持参するところだ。

 みんなみたいに倉沢さんの話で盛り上がれたら、毎日がもっと楽しいんだろうな。


 入社してから、一番楽しみのない日々が過ぎていく。

 新入社員のオリエンテーションで、構造設計グループを代表して彼が話す姿にひと目ぼれして。
 それからというもの、私のことなんて知らない彼を目で追って。
 仕事でやっと名前と存在を覚えてもらえて……。


 これからだったのにな。
 やっと、片想いがカラフルに色づき始めたところだったのに。


< 134 / 386 >

この作品をシェア

pagetop