副社長のイジワルな溺愛

 木曜。
 急ぎの依頼が入って、あらゆる書類とデータの確認をしていたら、経理室内でたった一人残っていた。

 時刻は二十時ちょっと前。
 このところ食欲がないせいで空腹は感じないけど、さすがに疲れてきた。
 デスクチェアにもたれて、大きく体を伸ばす。頭も下げてひっくり返った光景を眺めていたら、経理室のドアが開いた。

 機密情報が含まれているものも扱っているから、経理室をはじめ必要に応じて出入口のドアはすりガラスになっていて、人影が確認できる程度だ。
 こんな時間に誰が来たのかと、身体が強張って動かせない。


「……っ、あははは! 深里さん、何やってるの?」
「倉沢さん!?」

 書類が入ったクリアファイルを持って、倉沢さんが入ってくる。
 久しぶりに見た彼の姿に、ひっくり返ったままだった私はようやく体勢を戻した。


「ちょっと身体を伸ばしてたところで……」
「ごめんね、タイミング悪くて」
「いえ、そんなことないです」

 せっかく会えたのに、こんな変な顔を見られてしまうなんて……。


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