副社長のイジワルな溺愛
人気の少ない二十時過ぎの社内は、話し声もひそめてしまう。
十七階から三階までエレベーターでやってくると、倉沢さんは社食に入っていった。
「……本当だ。誰もいない」
「夜カフェが二十時までだからね。それが終わったらセルフでしょ? セルフでここを使う人ってそうそういないはずだから」
端の方に行こうと言われ、入口が見える奥の席で隣り合って座った。
「どれが分からないの?」
テーブルの上で開いた参考書を見せると、彼は真剣な顔でじっくりと目を走らせた。
「工事間接費予定配賦率は 二.七パーセントと……」
私のノートに書き込み始めた彼は、問題を分かりやすく書き写してくれているようだ。
「この問三が分からなくて、いつも迷うんです。残高が借方の場合はA、貸方の場合はBって、他の問題にも出てくるんですけど、どっちにするか」
「あぁ、なるほどね。それはさ――」
丁寧に教えてくれる彼の横顔にドキドキしながら、真剣に説明に耳を傾ける。
時々、問題集から目線を上げて、私を見てくれるたびに鼓動が鳴ってしまった。