副社長のイジワルな溺愛
「じゃあ、こっちの問題はできる? 今の説明で理解してくれてたら、たぶん解けるはずなんだけど」
別の出版社から出ていた過去問を解きながら、教えてもらったことをひとつずつ思い出す。
間近で倉沢さんが見ているせいで緊張しちゃうけど、ここはきちんと問題と向き合わなくちゃ、せっかく時間を割いてくれた彼に申し訳ない。
「――OK! できたじゃん!」
「やったぁ!」
二人で向き合って微笑みあうと、彼は自然と片手を上げて私にも促し、ハイタッチをしてくれた。
なんだか、心配してたほどじゃなかったみたいだな。
噂されて困りはしたけど、彼はこうして仲よくしてくれる。
……今まで以上に、近くで。
「ん? どうしたの?」
「なんでもないです。誰か来たかなって思って」
ふと入口の方を見たら、海外出張中でいないはずの副社長の姿が見えた気がして……。
「誰もいないよ」
「気のせいだったみたいです」
「そっか」
セルフサービスのドリンクを持ってきてくれた彼がホットコーヒーを飲むと、ほっと息をついた。