副社長のイジワルな溺愛

「じゃあ、こっちの問題はできる? 今の説明で理解してくれてたら、たぶん解けるはずなんだけど」

 別の出版社から出ていた過去問を解きながら、教えてもらったことをひとつずつ思い出す。
 間近で倉沢さんが見ているせいで緊張しちゃうけど、ここはきちんと問題と向き合わなくちゃ、せっかく時間を割いてくれた彼に申し訳ない。


「――OK! できたじゃん!」
「やったぁ!」

 二人で向き合って微笑みあうと、彼は自然と片手を上げて私にも促し、ハイタッチをしてくれた。

 なんだか、心配してたほどじゃなかったみたいだな。
 噂されて困りはしたけど、彼はこうして仲よくしてくれる。
 ……今まで以上に、近くで。


「ん? どうしたの?」
「なんでもないです。誰か来たかなって思って」

 ふと入口の方を見たら、海外出張中でいないはずの副社長の姿が見えた気がして……。


「誰もいないよ」
「気のせいだったみたいです」
「そっか」

 セルフサービスのドリンクを持ってきてくれた彼がホットコーヒーを飲むと、ほっと息をついた。


< 141 / 386 >

この作品をシェア

pagetop