副社長のイジワルな溺愛

 何かに突き動かされるように名刺に記載されている番号を打って、携帯を耳に当てていた。

 話すことなんて決めてない。
 思い出した副社長の言葉の真意と、今日までの色々を聞いていいのかもわからない。

 でも、なんだか話した方がいい気がして……。


《――御門建設 御門です》

 十三日ぶりに聞いた副社長の声はやっぱり落ち着いているけど、ちょっと懐かしさも感じた。


《もしもし?》
「深里です」
《どうした? 何かあったのか?」
「いえ、あの……」

 まるで私の安否を気遣うようで、なんとなくかけてしまったなんて言えなくなる。


「もう帰国されたんですか?」
《帰ったよ》

 いつになくやわらかい声色で、彼の笑顔を思い出した。


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