副社長のイジワルな溺愛

「随分早く戻られたんですね」
《不服か? 俺が戻ったら》
「……そういうことではないのですが」

 携帯の向こうからは何も聞こえない。
 私が曖昧に言葉を切ったら、彼も黙ってしまった。それに、顔が見えない状況で沈黙が続くと気まずさが生まれてくる。


《俺は、一日でも早く戻るつもりでいたよ》
「あのっ……」
《倉沢と仲よくしてるようで何よりだ。俺がいない間も、手抜きしなかったんだな》

 やっぱり、さっき見たのは副社長だったんだ。
 話しかけることなくいなくなったのは、気を使ってくれたのかもしれない。


「はい……副社長に言われたので」
《そうか》

 いつになく穏やかな口調に、胸の奥がなぜかギュッと締め付けられた。


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