副社長のイジワルな溺愛
副社長が私を好いているはずがない。
彼のように華麗な経歴があって、家柄もよくて、仕事も完璧で……非の打ちどころがないような人が、地味で何の取り柄もない私を目にかける必要を感じない。
それに、彼ならいくらでも女性を選べるはずだ。
社内にだって、かわいい人や綺麗な人、聡明でキャリアを積んでいる人が大勢いる。
副社長の人脈なら、社外にも知り合いがいて、私が知らない世界をたくさん見ているだろう。
《試験、上手くいきそうか?》
「……倉沢さんに、今日教えてもらって」
《勉強してたのか。倉沢のためにも、受からないとな》
「はい」
少し話してはまた沈黙が流れ、そのたびに自分の心音が鼓膜に響く。
ドキ、ドキ……って、いつもより急いている音が、沈黙を繋いでいるようで耳を澄ませた。