副社長のイジワルな溺愛

 少しずつ秋が感じられる九月の日々は、空も真夏ほど攻撃的な青を広げていないし、蝉の声がうるさくて眠れない夜もない。

 日々の仕事ぶりを経理室長が評価してくれて、もう少し大きな案件の経理も任せてもらえることになった。
 もちろん一人で抱えるわけではなく、先輩に様々なことを教えていただきながらだけど、早速目から鱗が落ちるほど作業効率の良い方法を教えてもらって、今日はとても充実した気分だ。


 定時を少し回った頃、PCをシャットダウンして席を立った。

 水曜の夕方の街を眺めながら、携帯で音楽を聴いて歩く。
 倉沢さんに話しかけたいけど、そう簡単に会う機会はなくて、未だに誘えぬままだ。

 思い立ったが吉日とはよく言ったものだと思う。
 試験終わりに誘おうと決めた時より、時間の経過とともに決意が鈍ってきた。


 もし断られたらどうしようって、ネガティブな考えが浮かぶ。
 そもそも噂の渦中にいるのに誘ったら迷惑かもしれない。

 でも、こうして自分を磨いてきたのは、倉沢さんに振り向いてほしいからでもあって……。


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