副社長のイジワルな溺愛

 静かに流れるジャズの音色。暖色の照明が灯る入口に立っていると、黒服を着た男性が通りかかって私に気づき、丁寧にお辞儀をしてくれた。


「いらっしゃいませ」
「あの、こちらはclub藍花さんで合っていますか?」
「はい」

 百五十五センチの小柄な私を品定めするように見つめる店員さんの視線が痛い。


「大変申し訳ございません。当店はドレスコードがこざいまして、ふさわしくない装いのお客様のご入店はお断りさせていただいております」
「あっ、すみません」
「もしこちらで勤務をご希望なのでしたら、裏手からお入りいただきますが」
「そういうわけではありませんので……」

 初めて来た夜の店の雰囲気に圧倒されて、要件を言えずにいる私に畳み掛けてくる店員さんが、怪訝な顔で見下ろしてくる。


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