副社長のイジワルな溺愛
「唇、潤いが足りてないな。倉沢とキスしたいなら、リップくらい塗っておけよ」
不敵な笑みを浮かべて、恋人同士の距離で呟いた副社長の声が鼓動と混じる。
彼は動揺している私をしれっと放置して、自席に戻った。
「リップくらい持ってます! ほらっ、ほらっ!!」
ペンケースから薬用リップを取り出し、印籠を見せるように突き出すと副社長は呆れた顔をした。
「色気ゼロだな。仕方ないからこれやるよ」
「っ!!」
副社長がデスクの傍らに置いていた紙袋から小さな缶のようなものを放り投げ、私は慌ててキャッチする。
「スペイン土産だ。アガタ・プラダのバーム。定番で悪いが、他の者には買ってきていないから見つからないようにしろ」
「……もしかして、私にお土産ですか!?」
「経理で迷惑をかけているからな」
カラフルなパッケージの缶はかわいいし、私のために買ってきてくれたのが嬉しくて、つい笑顔がこぼれだした。