副社長のイジワルな溺愛
翌週木曜、ランチタイム。今日こそはと意を決する。
倉沢さんが何時に誰と昼食を取るのかわからないけど、構造設計グループに行けば会えるんじゃないかと思って、フロアのドアの前で待つ。
まだ噂は消えていないけど、人の興味はそう長く続かないようで、行き交う社員からあまり冷たい視線を浴びることはなかった。
もう一か所に設けられた構造設計グループの出入口から、彼が同僚と出てきたのが見えた。
まだ私には気づいていないみたいで、軽く腕組みをして話しているのを黙って見つめる。
「……っ」
倉沢さんに話しかけようとしたら、彼の後ろから追いかけるように出てきた女性社員に先を越され、私は声を詰まらせた。
まだ噂はある。
彼に迷惑はかけたくないし、嫌われたくはないし……。
「倉沢さんのこと、待ってるんじゃないの?」
出鼻を挫かれた私の存在に女性社員が触れて、何とも意地悪な顔をした。
今彼を誘ったら、また話のネタにするんだろうな。
少し前まで,瓶底眼鏡の地味女だったくせに……って。