副社長のイジワルな溺愛

「社食に行く? 外がいい?」
「どっちでもいいよ」
「じゃあ、社食。メニュー変わってから来てなかったんだ。いい?」
「うん」

 十三時過ぎの社食はそれなりに混んでいて賑やか。三階のワンフロアをすべて使っていても、席はどんどん埋まっていく。
 会ったことのない社員も大勢いて、御門建設の規模が目に見えるようだ。


 トレーを持って、列に並ぶ。
 どれにするか悩みながら少しずつ進む行列に足並みをそろえていると、突然周りがざわついた。



「お疲れさまです!」

 口々に挨拶をする声の方へ視線を向けると、副社長が来ていて。
 隣にいる香川さんまでも、「深里さん、深里さん!」って嬉しそうに腕を叩いてくる。


 どうか私に話しかけてきませんように。
 私の存在に気づかずに通り過ぎてほしい。もし気づいても無視してもらいたい。

 こんなに大勢の前で話したら、また噂に振り回されてしまいそうで……。


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