副社長のイジワルな溺愛

 社内人気が高い副社長の登場に、居合わせた女性社員たちの視線は釘づけ。
 ここに私がいることに気づいている人は、そう多くなさそうだ。


 社食内にテナント誘致した大手カフェチェーンへ副社長が向かうと、一般社員と同じように並んで注文の順を待っている。



「ご注文は?」
「あっ、えっと……Bセットください」

 いつの間にか自分に回って来ていたオーダー順に気づかず、副社長の動向を見守ってしまった。


「深里さんって、副社長派?」
「……考えたことないかな」
「副社長も素敵だけど、私は絶対に倉沢さん派だなぁ」

 香川さんは噂のことに触れず、空席を見つけるなり座って話しかけてくる。


「だって、副社長が笑った顔見たことないし。怒ったら寿命が縮むほど怖いみたいだし」
「怒ってるんだから怖いのは当たり前だよ」
「でも、倉沢さんはいつも朗らかでしょ? 一緒にいて楽しそうなのは倉沢さんだと思わない?」

 答えに困り、私はハヤシライスを食べてごまかした。


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