副社長のイジワルな溺愛
トレンチコートの背中を見るだけで、胸がきゅんとする。
バッグを持つ手が大きくて、微笑みながら話すその表情も声色も……全部、全部好き。
「いらっしゃいませ」
「予約した倉沢です」
「ありがとうございます、どうぞ奥の個室へ」
個人経営のビストロの店内には、デミグラスソースのいい香りが漂っている。
「あー、腹減った。何食べる? 最初はビールでOK? っていうか、深里さんはお酒強い?」
「えっと」
「ごめんごめん、深里さんと二人で出かけるのが新鮮で、質問攻めにしちゃった」
白い歯を見せて笑う彼が何だかかわいいと思ったのは、初めてだ。
二人で食べるものを決めて、先に出された中ジョッキの生ビールで乾杯をした。
上下する喉元に入っていく琥珀のビールを、彼はとても美味しそうに飲む。
私も少しずつ飲んで、すぐに運ばれてきた枝豆とチーズのディップを食べた。