副社長のイジワルな溺愛
恋のふりだし
静まり返った副社長室。
私が叩くキーボードの音と、副社長が弾くキーボードの音が絶え間なく鳴る。
毎週金曜、御門タイム。
勝手に名づけたけど、あまり愛着はない。
仕事もやることをやればいいやって、流れ作業のようになってしまった。
倉沢さんに振られて二週間。
十月の上旬に変わった卓上カレンダーを見るたびに、涙が滲みそうになる。
彼がマレーシアに発つのは年末。
来期から着手する事業の準備のため、前倒しで現地入りするって聞かされた。
何かあったら連絡していいし、友達でいさせてほしいって……そんな優しさだけを得て、私の恋は終わった。
「――おい、聞いてるのか」
「っ、はい」
怪訝な顔で私を呼んでいた副社長が、私を冷たく見つめていた。