副社長のイジワルな溺愛




 倉沢さんと接することがなくなったら、噂は消えた。
 きっとプロジェクトのことで彼の周りも多忙を極め、それどころじゃなくなったせいかもしれない。

 経理室もやることが増えてきた。
 年末が近づくにつれて次年度の課題も出てきて、打ち合わせの時間も多くなる。
 任される仕事にミスがないよう、細心の注意を払って取り組む。

 今できる目下のことを続けていたら、恋なんて忘れられると思える。


 そして、十二月になったら彼が日本を離れて……。
 思い出は今年に置き去りにして、年明けからはもっと前を見て進んでいけたらいい。

 時々、ふと倉沢さんを思い出すことがあるだろうけど。
 それでもちゃんと前に。



 十月下旬、金曜恒例の御門タイム。
 それも、今日で終わりだ。
 彼の秘書がやっと経理ごとまで手が回るようになったらしく、経理室長に申し出があったらしい。


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