副社長のイジワルな溺愛

「副社長、作業が終わりましたので失礼いたします」

 三十分ほど経ってから声をかけると、彼は資料から目を上げた。


「ありがとう」
「こちらこそ、貴重な経験をありがとうございました」
「今夜は、空いてるか?」
「……はい」
「十八時半に駅前で待っていなさい。たまには食事でもしよう」


 最近は、周囲の興味が失せたのか、副社長との噂も少しずつ消えてきた気がする。
 秘書とすれ違っても、高圧的な雰囲気は感じない。

 私に向けられる視線が耐えられないほどのものではなくなってきた思うし、副社長も突然経理室を訪れたり、エレベーターで遭遇することも減ってきたからかな……。

 だけど、また誰かに見られてしまったら、ふりだしに戻る。
 今度こそ、決定的なものとして噂されるだろう。


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