副社長のイジワルな溺愛
手を抜くと副社長に怒られるから、失恋したのに自分のためだけに着飾ってきた。
パンツルックに合わせてブーティを履いてきたけど、似合っているどうかは未だに自信がない。
雑誌やファッションビルのマネキンを見て、少し真似るところから始めたから……。
「深里さん」
駅前のロータリーで副社長が来るのを待っていると、待ち合わせより十分ほど遅れてやってきた。
「すまない、遅くなった」
「いえ。お忙しいと思いますので、気になさらないでください」
「大丈夫だったか? 特に何もなく待っていたか?」
「はい、大丈夫です」
初めて副社長と出かけた銀座の夜に比べて、彼の心遣いに温もりを感じる。
そして、“大丈夫か?”って言ってもらえると、心がホッとするのを知った。
「今まで手伝ってくれた礼だから、好きなものを食べさせてやる」
「本当ですか!?」
「ああ」
隣を歩く副社長を見上げたら、ちょっと楽しそうに見えた。
きっと社内の誰もが知らない、彼の優しくて穏やかな表情。
私が彼に甘えることを許されているような――。