副社長のイジワルな溺愛
「あはは、君が緊張しているのを久しぶりに見た」
「そうですか? 副社長の前ではいつも緊張していたはずなのですが」
「最初だけだな、それは。俺にあんなに色々話したり言い返してくる社員は、君くらいなものだ」
「……失礼いたしました」
「謝る必要はない。君が過ごしやすいようにしていなさい」
赤信号で停車した向こうに広がる街並みを、副社長は携帯のカメラに収めた。
ハロウィンの色に染まった店先や通りを眩しそうに眺めては、何枚か撮っていて。
「カメラが好きなんですか?」
「いや、特別好きではない」
そのわりに撮った写真を見て、ちょっと嬉しそうにするのはどうしてだろう。
綺麗に撮れたものを拡大してみたりして、少ししてから携帯をしまった。
「なんだ?」
「副社長のそういう姿を初めて見たので……意外だっただけです」
「君のなかで、俺は仕事人間の冷徹な男でしかないのか?」
まったく、と言いたそうに副社長が少し微笑む。
だけど、彼の言いたいことがわからなくて、私は黙ってしまった。