副社長のイジワルな溺愛
午前中もランチタイムも午後も、慌ただしく過ぎた。
他部署に用があって向かっていた時、同僚と話しながら歩いてくる倉沢さんとすれ違ったけど、挨拶もしてもらえなかった。
それに、私も顔を見れなくて……。
「お疲れ」
「っ!! お疲れさまです」
営業部に依頼されていた資料の原本を届けるために社内を歩いていると、突然背後から現れた副社長に声を掛けられた。
驚いた私を見ても、彼は冷徹な表情を崩すことなく、私と並んでエレベーターの到着を待っている。
「元気になったか?」
「……わかりません」
「そうか」
唯一、私の失恋を知る彼は、今日になっても優しく気遣ってくれた。
「今日は何時に帰れそうだ?」
「十八時頃にはと思っています」
「業務が終わったら、副社長室に来なさい」
エレベーターが到着して、先に乗っていた社員に混じる。
彼が乗ると、途端に緊張感に満たされ、誰もが無言になった。