副社長のイジワルな溺愛
「副社長のことを何も知らないので……それに私じゃ釣り合わないと思うので」
「そうか? 俺と君はとても似合っていると思っていたけどな」
五十分ほど経って到着したタクシーから降りた。
話の途中だったから、彼がどうして似合っていると思っているのかはわからないまま。
地下へ階段を下りていく彼の後ろについて行こうとすると、三段ほど先を行く彼が振り返って、手を差しだした。
「つかまって」
「……ありがとうございます」
ヒールの足元を気遣ってくれた彼が、私の歩調に合わせてゆっくりと降りてくれる。
こういうふとした優しさが、私の心に積もってきたのだと思い出す。
電話をしたら、何かあったのかと気にかけてくれて。
待ち合わせると、すぐに何もなかったかと心配してくれた。
私の勝手なワガママで魅力を磨くことにつき合ってくれたし、失恋して泣いてしまったら、好きなだけ泣かせてくれて。
副社長は、とても優しい。
少しも冷たくなんてない、大人の男の人だ。