副社長のイジワルな溺愛
「随分と騒がしい」
「ひっ!!」
まだ呼吸が整わないうちに、右から聞こえた声に顔を上げるなり、私はすぐに小さな悲鳴を上げた。
「朝から人の顔を見て悲鳴を上げるとは、なかなかの度胸を持っているようで」
「しっ、失礼いたしました」
「御門で働くなら、髪くらい乾かしてきなさい。男の部屋から出社してきたのか?」
「そ、そんな人いません!!」
彼氏なんて今までいたことないし、それに男の人の部屋から出社するなんて……ハレンチ!!
一人でかぁーっと頬を赤らめていると、副社長が涼しげな目元を細めて微かに笑ったような気がした。
「だろうな。そんな相手がいれば、もうちょっと気を使うだろう」
言い返す言葉が浮かばず、もごもごとしていたら経理室が入っている階に到着し、私は一礼して慌ててエレベーターを飛び出した。