副社長のイジワルな溺愛

「帰るな」
「…………」

 彼の腕が伸びてきて、私の肩を引き寄せる。
 鍛えられて雄々しい胸元に頬を寄せたら、鼓動の音が聞こえた。


「帰したくない」

 ぎゅっと抱きしめられて、ほのかに煙草の匂いを感じる。
 他の誰とも分からない人のそれは嫌悪するのに、彼のだけは胸がきゅんとするんだ。


「副社長の匂いがします」
「……俺の匂い?」
「煙草の匂いが少しと、あとおしゃれな香水の匂いです」
「そうか」

 そっと髪を撫でられ、その心地良さにうっとりとまぶたを下ろす。

 彼の想いに答えを出せていないのに、甘やかされたら流されたくなってしまう。
 そんなことは許されないはずなのにな……どうして彼は際限なく私を想ってくれるんだろう。


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