副社長のイジワルな溺愛
「もう少しだけでいいから、話したい。俺のことをもっと知ってほしいんだ」
「……はい」
ブーツを脱いで、リビングに戻る。
一度帰宅を決めた私を、彼はソファへ誘う(いざなう)。
キッチンからアルコール度数の低いチューハイと、ロックグラスを持ってきた彼は、ブランデーを少し注いでひと口含んだ。
「いずれ、兄が会長職に就くと思う。そう遠くないうちに、俺も社長になる」
「ますます高嶺の花になっちゃいますね」
「そんなもんでもないだろう、俺は」
「社内で一番人気があるの、ご存知ですよね?」
白桃のチューハイはジュースのように飲みやすい。
彼も、球になった綺麗な氷を溶かすようにグラスを揺らして、ブランデーを少しずつ飲み進めている。
明日は土曜だから、時間を気にせず彼と話せるのは嬉しいし、帰るなと言われてドキッとした気持ちが一体何なのか、答えを見つけたいと思った。
「俺はたった一人に想われてれば、それで十分幸せだよ。まぁでも、好きな人に好きになってもらうっていうのは、なかなか難しい」
ちらりと私を見た彼は、唇で綺麗な弧を描いた。