副社長のイジワルな溺愛

 バタバタと席に着き、なんとか就業時間に間に合った。


「いいわね、若い子はすっぴんで出勤できて」
「すみません……」

 お局様からは朝からお小言を言われ、締日を過ぎてからが本当に忙しくなる部内は、ピリピリしたムード。
 こんな日に限って遅刻寸前で出勤するなんて……厄日は昨日だけじゃなかったのかも。副社長にも会っちゃったし。



「おはよう」
「倉沢さんっ!?」

 汗が引いて、空調が利いた室内でやっと業務に集中し始めた九時四十五分。
 二日連続で倉沢さんが顔を見せてくれて、沈んでいた気持ちが一気に浮き上がった。


「昨日、ごめんね。仕事増やしちゃったから、これお詫び」
「あ、これ好きなんです」
「うん、知ってる。いつも飲んでるもんね」

 倉沢さんが買ってきてくれたのは、私が好きな炭酸水。甘いものは喉が渇くし、強い炭酸が気分転換にぴったりなのだ。


< 25 / 386 >

この作品をシェア

pagetop