副社長のイジワルな溺愛

 副社長からのお誘いは、いつも突然だった。

 でも、今日は違う。
 初めて彼が約束をしてくれたのが新鮮で、嬉しくなる。


「その笑顔が俺は好きなんだよ。……今日何があったか、どうしても話せないか?」

 忘れてくれていると思っていたのに、彼はずっと気にかけてくれていたようだ。


「茉夏」

 黙ってしまった私の手を取り、そっと握ってくれる副社長の温もりが優しくて。

 泣くつもりなんてない。
 失恋ならもうとっくにしていたんだから、今さら傷つくこともないだろうって思ってた。


「泣くほどのことがあったら、俺に話しなさい。いくらでも甘えさせてやるから」

 止められなかったひと粒が頬を伝ったら、あとは溢れるだけだった。


 ぽろぽろと零れる涙を、副社長が長い指で拭ってくれる。
 私の手を包む大きな彼の手はそのままに、心配そうにのぞきこんでくる瞳があまりにも優しすぎた。



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