副社長のイジワルな溺愛

 ランチタイムは香川さんと都合が合わず、ひとりきり。でも、携帯の中には副社長とのやりとりが残っている。
 後ろに誰も来ない社食の隅っこの席を選び、ビーフストロガノフを口に運んだ。


【返事は?】

 ふと送られてきた彼からのメールに、首を傾げて文字を選ぶ。


【お疲れさまです。今夜の件、かしこまりました。今度を楽しみにしてます】
【返事が遅い。今すぐ副社長室に来なさい】

 珍しく苛立っている様子が文面から感じ取れて、三分の一の量を残して社食を出て、お手洗いで身なりを整えた。



 三階から三十四階へ向かう間、そわそわしてしまう。
 何か気に障るようなことでもあったかと、今日のことを思い返す。
 返事が遅いからだとしても、彼はそんなことで機嫌を損ねるような人じゃなかったはずで……。


 副社長室の明かりが点いているのを確認して、ノックしてからそっとドアを押し開けた。


「失礼します」
「…………」

 今までなら、通話中以外出迎えの返事があったのに、今日は黙ったままで私を見つめている。


< 260 / 386 >

この作品をシェア

pagetop