副社長のイジワルな溺愛
怒涛の忙しさで息をつく間もなかった。午前中はいつの間にか過ぎていて、ランチも後回しにして経理業務をひたすらこなしていたら、気づけば十五時。
「ランチ、行ってきます」
行ってらっしゃい、と隣席の同僚に返事を返され、バッグを持って経理室を出た。
先に食事に出た同僚は間に合ったかもしれないけど、きっともうランチタイムは過ぎているはず。今日は社食でいいか……。
毎月のことだけど、やっぱり月末月初は疲れる。
首を回しながらエレベーターを待ち、到着を知らせる表示灯が点滅した方へ足を向けた。
「…………」
「乗らないんですか?」
「失礼します」
他に誰もいない、二人きりの透明の箱。お互いに無言のまま下降していく。
何か話してくれないかな……って私なんかに用はないか。
昨日といい今日といい、本当にツイてない。
どうしてこうも副社長と顔を合わせてしまうんだろう。
なんだか気まずくて、階数表示を見るついでに副社長を視界の端で捉えた。