副社長のイジワルな溺愛

 途中で誰も乗り合わせることなく、社食のある三階にエレベーターが到着すると、副社長も一緒に降りてきた。


「副社長もこれからランチですか?」
「私はもう済ませた」
「そうですか」

 副社長が社食を食べているところなんて見たことがないし、噂を聞いたこともない。
 それに、そんなことがあれば女子社員が群がるように集まるだろう。


「Cセットください」
「はいよー」

 おしゃれなコックコートを着たおばちゃんが威勢よく返事をしてくれたけど、見渡してもこの時間にランチを取っている人はいない。
 トレーに乗せられた牛丼と味噌汁、お新香を適当なテーブルに運んで席に着く。
 うちの社食はTVでも取り上げられるくらい美味しいと評判だけど、本当に食べたかったメニューは売り切れていた。


< 29 / 386 >

この作品をシェア

pagetop