副社長のイジワルな溺愛

「どうした」
「…………」

 歩き出した副社長の背中を見つめていると、彼は足を止めて振り返った。

 どうしたもこうしたも、副社長と話しただけで一気に周囲の視線を集めてしまっているのだ。ついて行こうものなら騒ぎになるのではないかと、一歩も踏み出せずにいるだけ。


「どのようなご用件なのでしょうか?」

 片眉を歪ませて怪訝な表情をした副社長が圧のある視線を向けてきた。
 思わず身を縮めた私は数歩後ずさり、自動ドアのセンサーが反応して社内のエントランスロビーに入りかけている。


「ここでお話していただけるのでしたら、助かるのですが」
「立ち話をしろと? いい度胸だ。ついてこい」

 一番避けたかった光景が広がる。
 驚いた様子で行き交う社員が私たちを見つめ、そんなことはお構いなしに副社長は私の手を引いている。


 来週から、全女子社員から目の敵にされるのではないかと思うと、背筋が凍った。


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