副社長のイジワルな溺愛

「ごめんね、急にお願いして」
「いえいえ」

 親しげに話す二人を横目に、キッチンで冷緑茶を注ぐ。
 好きかどうかわからないけど、彼が取引先からいただいた水羊羹を一緒にトレーに乗せ、ソファまで運んだ。


「どうぞお気遣いなく」
「いえ……どうぞごゆっくりされてください」

 できれば今すぐ帰ってほしいけど、そうもいかないだろう。
 きっと大切な話があるから、こういう時間を彼はわざわざ設けたはず。


「それが、あまりゆっくりもしていられないんだよ」
「そうですね。もうこんな時間ですから」

 突然二人がソファから立ち上がると、彼は廊下のドアの向こうから大きな紙袋を持って戻ってきて。


「行きたいんだろ? 花火大会」
「えっ!?」
「お前が行きたいなら、連れて行ってやるよ」
「行きたいです!!」

 驚きつつも状況がのみこめずにいる私に、彼は綺麗な浴衣を広げて見せた。


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