副社長のイジワルな溺愛

「御門さんもお仕度されたようですので、私はこれで失礼します」
「村上さん、急なお願いだったのにありがとうございました」

 持参してくれていたメイク道具や着付けの小物をまとめると、彼女は挨拶もそこそこに帰ってしまった。


「……さて、行くか。混み合う前に行った方がいいだろ」
「はい!」


 元気に返事をしつつ、胸の奥は一気に恋の色が濃くなっていく。
 だって、慧さんも浴衣に着替えていて、すごく素敵で見惚れてしまったから。

 黒地に太さの異なる縞が入った浴衣が、絵になるほど似合っている。
 帯を締めた腰元がやたら色っぽいし、片手に提げた信玄袋もその佇まいに色を添えていて……。


「茉夏、行くよ」

 長い廊下の先を行く彼が、私の下駄を玄関に並べると、振り返って優しくにっこりと口角を上げて微笑んだ。


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