副社長のイジワルな溺愛
「ちょっとすみません、通ります」
彼はすぐに私の手を引いて列から外れると、立ち並ぶ民家の間の細い道を小走りで進んでいく。
「大丈夫?」
「うん!」
浴衣の裾をつまんで、手を引かれるままに走る。
少し離れた空から雷鳴が聞こえ、瞬く間に白雨に変わった。
雨で濡れた彼の髪は額に落ちて、いくつもの束になったその隙間から時折視線を投げられると、無条件にドキッと胸が鳴って……。
先を行く彼の背中が、私の記憶にくっきりと残った。
会場の最寄駅から少し外れた大通りに出ると、彼は空いている手を挙げ続けている。
私の頭に広げたハンカチをかぶせ、自分は濡れることを厭わずに一生懸命になっている姿を見て、彼についていきたいと想いを強くした。
五分ほど経った頃、ようやく一台のタクシーが停まってくれて、彼が私を先に乗せてくれた。
「帰ったらすぐ身体を温めよう」
「うん」
冷えてしまった私を抱きしめてくれる彼も寒いはずなのに、ずっと気にかけてくれるその優しさが大好きで……。
そっと彼を見つめると、運転手の目を盗んだ彼が唇をそっと重ねてくれた。