副社長のイジワルな溺愛

「すみません、お待たせしてしまって」
「いえいえ。こちらもつい先ほど来たところですので」

 個室の戸をくぐって、身なりの整ったスーツ姿の男性が二人やってきた。
 茉夏は会ったこともない相手を前に、明らかに緊張を新たにして背筋を伸ばし、俺の隣に立ち上がった。


「永井ホールディングスの永井と申します。こちらは私の秘書をしている九条です」
「はじめまして。いつもお世話になっております……」
「こちらこそ、いつも御門副社長にはお世話になっております」

 誰にでも気さくで、大企業のCEOとは思えない穏やかな人柄に、彼のファンは多い。
 秘書をしている九条さんも大地主のご子息で、うちが建設を進めるに当たり、持ちつ持たれつの関係だ。


 この【みなみ野】という店には、現会長である父親に連れて来られてからというもの、気に入って使うようにしている。
 学生時代からの旧知の中ではあったけれど、久々に会ったのもこの店で、あの日はお互いに一人で食事をするのにカウンターに座っていたのがきっかけだった。 


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