副社長のイジワルな溺愛
「とても美味しいお食事をありがとうございました」
「別に礼なんてなくてもいい。付き合わせて悪かったな」
「そういうわけには……。それから、あのようなお店に行くこともないので、貴重な経験になりました」
高級鮨店に、高級クラブ。いかにも大物が通いそうな雰囲気にのまれたけれど、人生のいい経験にはなったと思う。
次に行く機会なんてきっとないだろうから、本当に貴重な時間だった。
副社長があんなふうに怒っているのも初めて見たし、破顔してるのも……意外だったな。
「用件はそれだけか?」
「はい」
とっとと出ていけと言いたそうな冷たい視線に晒されつつ、脳裏に浮かぶのは副社長の笑顔。
冷徹なイメージしかなかったのに、思い切り目を細めてキラキラとした笑顔を見せてくれた。
「あの……」
「なんだ」
「こんなこと言ったら笑われると思うのですが、教えていただきたいことがあります」
片眉だけを僅かにあげて私に続きを促すような表情をした彼は、やっぱり少し怖いけど……。