副社長のイジワルな溺愛
八月になったら、途端に暑くなった気がする。ランチタイムで外に出るのも迷うほど、日差しが強い。
先月の経理業務も差し戻しはあったけど終わらせることができたし、今日からは比較的緩やかな時間が戻ってくるはず。
香川さんには気を付けてって言われたけど、女性らしさを磨くのは悪いことじゃない。それに、副社長と噂になっているからってやめてしまうのも、ちょっと違う気がして……それがたぶん私らしいところだったりするのかな。
「あっつ……」
ランチ用の小さなトートバッグを手に、近場の蕎麦屋まで日陰のない会社前の大通りに出ると、燦々と照りつける太陽にめまいがしそうだ。
「ほら、あの人だよ。副社長の」
「例の? 副社長って意外と地味系が好きなのかな」
あの日を境に、社内での居心地が悪くなった。
経理室の端で特別目立つことなく過ごしてきたのに、噂の的になってしまうなんて……。
深いため息をついて蕎麦屋の暖簾をくぐり、空いている席に座ってメニューを手に取った。