副社長のイジワルな溺愛
ランチタイムの一時間はあっという間で、十四時の街を速足で歩いて社に戻った。
少し歩いただけで汗ばみ、熱気を逃がしたくて、エレベーターを待つ間にシャツの胸元をつまんで扇ぐ。
「女らしくするんじゃなかったのか?」
「っ!!」
今一番会いたくない副社長が、私の背後から現れて息を飲む。
周りには数人の社員が同じようにエレベーターを待っているけれど、左右に三台ずつ設けられていて、私が並んでいる列には他に誰もいない。
「暑いのは仕方ないが、メイクが溶けているのは見るに堪えないな」
「……これから直すところです」
「そうか」
倉沢さんとは比べ物にならない冷徹ぶりに、若干の憤りを感じつつ口を噤む。
少しでも話せば、また噂を立てられるだけだと思ったから。