副社長のイジワルな溺愛
やってきたエレベーターの中、望まぬ密室で無言になる。
私の方が先に降りるから、あと少し黙っていれば済むだろう。
「何を食べてきた?」
「……お蕎麦です」
「美味かったか?」
「はい。それなりに」
私が副社長の方へ顔を向けても、彼は真正面を見つめてスラックスのポケットに両手を入れたまま微動だにしない。
副社長の耳には、噂なんて入ってないのかな……。
だから、こんなに普通にしていられるんだろう。表情も全く変わらないし、その件について何か言う素振りもない。
「お先に失礼します」
経理室がある十七階で扉が開き、一礼して降りようとしたら、ドアの向こうで到着を待っていた他の社員の存在に気づき、私は俯いてそそくさとその場を後にした。