副社長のイジワルな溺愛

「なんだ?」
「あ、いえ……なんでもありません」

 スーツを着てると分からなかったけど、肩幅が広くて、二の腕も逞しくて……男の人なんだって意識させられてしまった。
 副社長だから何もないって分かってるけど、男性の部屋に来てしまっていると再認識したら、全身が急沸騰して止められなくなる。 


「顔真っ赤。耳も首も、日焼けしたみたいに赤いな」
「そんなことないですよ」

 黒のTシャツと黒のスウェットパンツを穿いたラフな格好でも、少しも雰囲気が崩れないのが不思議なくらい。むしろ、色気は割増になっているような気さえする。


「湯上がりの男を見て、動揺してるか」
「してません」
「だったら、ちゃんと俺の目を見て話しなさい」

 ちらりと視線を上げて副社長を見るけど、やっぱり体温は下がりそうにない。
 ドキドキと急く鼓動も落ち着いてくれなくて、再び視線を落とした。


「男慣れしてないんだな、本当に」

 遠慮なく隣に座ってきた副社長から、ほのかに香るシャンプーの匂いがして、もっと見れなくなってしまった。


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