副社長のイジワルな溺愛

 コンタクトをしていると目が乾きやすく、このところ目薬が必携になってきた。自席でポーチから目薬を出し、手鏡で自分の顔を映す。
 マスカラもばっちり、アイラインもにじみなし。だけど、テカリが気になって離席することにした。

 入社してから化粧直しのために離席するなんて、今までなかったなぁ。
 業務の合間でさえメイクを気にするようになった自分は、少しだけでも女性らしくなれたような気がする。


「あ、深里さん」
「倉沢さんっ! お疲れさまです」

 廊下を歩いていると、先輩と話し終えた様子の倉沢さんがエレベーターを待っていた。


「今日はまた一段と違う雰囲気で、声をかけるの躊躇っちゃったよ」
「そうだったんですか? よかった」

 無視をされたわけじゃなかったと知って、心からホッとした。
 それに、違う雰囲気だって言ってもらえて嬉しくなる。


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