副社長のイジワルな溺愛
十三時を回ってから、副社長室に出向く。
何時でもいいと言われていたから、午前中のうちに片付けるべきことを終わらせてきた。
「失礼します」
「どうぞ」
いつも通り、ノックを二回してからドアを押して入る。
初めて訪れた時は、あまりの緊張で記憶から吹っ飛んでしまっていたけれど、副社長室だけは特別いい香りがする。
備え付けの棚に置かれたディフューザーから漂っていると気付くと同時に、副社長がデスクチェアからゆっくり立ち上がった。
「早速俺の言ったことを取り入れるとは、感心だな。少し切ったのか」
「はい、少しだけ。アドバイスありがとうございます。同僚にも褒めてもらえました」
「……そうか、よかったな」
そう言うわりに、あまり浮かない表情をしているような気がして、副社長を黙って見上げる。
「なんだ」
「今日も、私は何か怒らせてしまったでしょうか」
「そうだな、しいて言えば来るのが遅いくらいだな」
何時でもいいって言ったのは副社長なのに!
本当に勝手な人だなと思いつつ、立場も権力もある彼には逆らえず、少しだけ頭を下げて詫びた。